鬼道の掛け声が響く。それに従い佐久間、寺門、洞面が跳び上がり体を回転させる。
帝国学園の必殺技、デスゾーンだ。
三人のエネルギーを受けたボールが恐ろしい速度でゴールへと襲いかかる。
不調が続く円堂をカバーするために動き回っていた風丸たちもその速度と威力には反応しきれない。
ボールを捉えるべく円堂が腕を伸ばす。だが今の円堂では帝国学園の必殺技を止めきる事ができるか怪しい。
ここで追加点を許してしまうのは致命的だった。誰もが息を呑む。
しかし円堂にボールが届く前に土門が駆けつけた。
土門は全力でボールに当たりに行ったために顔で帝国学園の必殺技を受ける事になる。そのまま土門は地に伏した。
「土門! 大丈夫か!?」
円堂を筆頭に雷門イレブンが土門の周りに集まる。
弱々しく返事をした土門は体を動かす事もままならないらしい。小さくうめき声をあげ、体を起こす事を諦めた。
顔を顰める円堂と心配げに土門を見守る雷門イレブンの声ははっきりと聞こえない。
グラウンドに担架が入る。
ざわざわと騒めく客席に、木野の不安は煽られたようだった。顔色が悪い。
テクニカルエリアから今にも飛び出していきそうな木野の手を握る。
流石に出て行きはしないだろうと思っている。他人の体温で少しは安心できればいいと思った。
「土門くんは大丈夫」
「……うん、そうだよね」
きゅっと手を握り返して木野は小さく微笑んだ。
はグラウンドに目を向ける。
誰もが土門の心配をして、彼の運ばれる先を見ている。
その視線の中に帝国学園の人間のものが含まれているとは気がついた。
一部は不安そうに、そして一部は安堵の様子を見せていた。
影山から離れ、雷門と真正面からぶつかっている帝国学園はスパイとして知られた土門を心配していたのだろう。
「土門くんはいい居場所をみつけたね」
小さな声で木野に話しかける。まだ気がかりなのは確かだろうが、それでも木野は頷いた。
担架が姿を消し、中断した試合が再開すると思われた。
それを遮ったのはにとってはとても聞きなれた声だった。
「円堂!」
修也の声に振り向いた円堂の眼前に炎をまとったボールが迫っていた。
突然の事に何の対処もできない円堂はボールを受けそのまま飛ばされる。
驚いたのは円堂だけではない。
雷門イレブンをはじめ、ベンチにいたマネージャーや帝国学園の人間まで目を丸くして修也の行動を見ていた。
痛みを堪える円堂に修也が近付く。なんとかボールは抱え込んでいたらしい円堂が顔を上げた。
険しい、という雰囲気で修也が喋る。
はっと何かに気付いた円堂がボールを見つめた。
背後から夏未が困惑したようにの服の裾を引いた。
「豪炎寺くんはどうしたというの」
「うーん、修也くんの事だから……円堂くんが試合に集中してないから怒ったんじゃないかな、多分」
の言葉に夏未が顔を顰める。大事な試合に集中していないというのだから当然だろう。
ただ、その苛立ちだけではなく、やっぱり、という空気も感じる。おそらく円堂の不調は誰もが感じ取っているのだろう。
「円堂くん、やっぱり……」
木野が小さく呟いた。
怒った様子でいる夏未には聞こえていないようだ。木野と距離が離れている音無も同じく。
は木野の小さな声を聞かなかったことにした。何故だか掘り下げない方がいい気がしたのだ。
そこで再び頭痛に襲われる。じくじくと続いていたものではなく、かなり痛い。
「……さん、あなた本当に大丈夫なの?」
夏未が首を傾げた。
よっぽど酷い顔をしているのだろうか。訝しむ、というよりは心配そうな顔をしている。
「大丈夫、ありがと。夏未さんはちょっと心配性だね」
夏未に笑い返してベンチに戻る。いつまでもテクニカルエリアのギリギリに立っているわけにもいかない。
目金が驚いた様子でフレームの位置を正す。
さん、いつからそこに」
「ついさっきかな。やっぱり気付いてなかったのね」
これなら雷門イレブンにも戻ってきている事がバレているだろう。流石に隠れているつもりもないのだから当然なのだが。
ベンチの元いた位置に腰掛ける。
座った瞬間にどっと吐き気が押し寄せた。
一体何だというんだ、この体調不良は。
はぐっと目を瞑り気持ち悪さの波が引くのを待つ。
傍から見て心配されないようにほどほどにポーカーフェイスを保ちながらだ。
スタジアムに響く歓声とグラウンドで上がる声が試合の盛り上がりを強調していた。誰もの事など見ていない。
そっと目を開ける。炎をまとったボールが一直線にゴールネットに突き刺さるのが見えた。
やはり、いつ見ても格好良い。
幼馴染の打つ、炎をまとったシュートが一番格好良いのだ。
「点はやらない!」
相手のGKが奮い立った。
そこからは両者一歩も引かない激しい攻防が繰り広げられる。
あとは土門の負傷によるアディショナルタイムが残されているだけだ。試合の終了時間は刻一刻と迫り、PK戦に突入する寸前である。
雷門も帝国学園も、双方が体力の限界だろう。
始めの頃とは比べ物にならない程に雷門は強くなった。しかし、雷門には補充できる人員が足りていない。
経験や基盤の差が出る。延長に持ち込まれては不利になるだろう。
鬼道が半田からボールを奪い、その背後から寺門と佐久間が走り込んでくる。
皇帝ペンギン2号のフォーメーションだ。
どんな時でもすぐに次の動きに対応してくる帝国学園の実力は確かなものだった。
円堂はそれにゴッドハンドで立ち向かう。
皇帝ペンギン2号の威力は流石の一言で、円堂もじりじりと押されていく。
修也が円堂の名を呼んだ。
雷門イレブンは誰もが緊迫した表情で円堂を伺っている。
ぐっと円堂がもう片方の手を出し、両手のゴッドハンドが繰り出された。
数秒の後、ばちっと雷が帯電する。
見れば円堂の手の中にはしっかりとボールが収まっていた。
ベンチにも聞こえるくらい大きな声でチームメイトが円堂を讃える。
それに負けないくらい円堂は大きく声を出し、ボールを前方に思い切り投げた。
風丸、少林寺、半田とボールは次々に渡り前線へと運ばれていく。
半田のセンタリングに応じたのは修也と壁山――だけではない。
ゴールから円堂が上がってきている。
イナズマ1号、イナズマ落とし、どちらかがフェイク。普通ならばそう考えたかもしれない。
修也と円堂は同時に壁山を足場にして二段ジャンプをすると空中でオーバーヘッドを繰り出した。
そのシュートはGKの必殺技をものともせず、ゴールへと突き刺さった。
「イナズマ……1号落とし……!」
目金が呆然として、名前を付けた。
誰もが唖然とする中、ネットに勢いを殺されたボールが地面に落ちる。
次に明確な音を聞いたのはホイッスルだった。
一瞬の沈黙、誰かが呟いた「やった……」という言葉を皮切りにスタジアムは沸き立った。
実況が雷門中の得点を告げている。
その直後、試合終了の長いホイッスルが鳴り響く。
雷門中は勝利した。ここで帝国学園は四十年の歴史に幕を下ろしたのだ。






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