がらがらと部室の扉を開ける。
不穏な空気に包まれていたので二歩ほど後ずさった。
さっきは円堂が出たり入ったりをしていたし、正直なところ関わりたくないのが本音だ。
、何をやってる。入ってこい」
こっちが何をやっているかを聞きたい、と思いながらも素直には修也の言葉に従う。
修也の隣に立ったところで口を開く。
「何してたの?」
「新しい監督について考えてたんだ」
「どーもいい考えが浮かばなくってさ〜」
円堂が頭を抱えている。
風丸や半田、木野や音無など、全員が頭を悩ませている問題だった。
このままでは試合に出ることもかなわず不戦敗だ。
くいくい、と修也の服の裾を引く。ちらりと視線を向けた所で尋ねた。
「ねえ修也くん、あの店主は?」
「店主……? ……そうか。円堂、雷雷軒のオヤジはお前のおじいさんを知っていたんだろう?」
修也が声を上げる。
円堂が満面の笑みを浮かべた。
そしてさっそく雷雷軒へと足を運んだのだ。
一同、といっても一部を除くのだが、全員でカウンター越しに店主に頭を下げる。
「監督になってください! お願いします!」
しかし店主の回答はあっさりしたもので、作業の手を止めることもなく「邪魔だ」と言い切った。
すいません、としょげたが円堂がそれで諦めるはずもなく、続いて円堂大介の話を始めた。
「俺のじいちゃん、知ってるんですよね? サッカー詳しいんじゃないですか?」
「あるいは、円堂のおじいさんとサッカーやってたんじゃないですか」
土門の言葉に、店主はピクリと反応を見せる。
気付いているのかいないのか、円堂はその言葉に食いついた。
キラキラと輝く目で円堂は店主を見る。
しかしサングラスの向こう側にあるそれは厳しいものだった。
「俺があの時なんといったか、忘れたのか。イナズマイレブンは災いをもたらす。恐ろしい事になるぞ」
低い声で告げられる言葉に周りはおびえる。ひどいものは互いに抱き合うほどだ。
円堂は「でも!」と声を荒げる。
「俺たちここまで来たのに! 全国に行けるんだよ!」
再び店主が反応を見せる。
円堂はカウンターに乗り出し、店主はそのまま、無言でお互い真っ直ぐに睨みあう。
「……あのな」
数秒の睨みあいの末、店主の口が動いた。円堂は承諾を得られると顔を輝かせる。
一方店主はメニュー表を掲げて、言い切った。
「注文しないのならとっとと出てけ」
「すごい商売根性……」
呆れたようにが笑った。修也も苦笑している。
円堂が半ばやけになって席に腰掛ける。「ラーメン一丁!」と注文をした。
店主がオーダーを取り、調理に取り掛かる。そしてその瞬間円堂は、ばっと自分の身なりを確認したかと思えば、大量の冷や汗をかきだした。
ユニフォームで財布など持ち歩く訳がない。円堂は助けを求めて秋を見た。
秋は安心して、と言わんばかりの笑顔で、
「大丈夫、ちゃんと鍵かけてきたから」
と言った。
呆然と状況を見ているだけのもの、頭を抱えているもの、呆れ返っているもの、その場の人間の態度は様々だった。
円堂は油の切れた人形のように店主に向き直ると、申し訳なさそうに、ぼそぼそっと呟いた。
「ちゅ、ちゅうもん……とりけし……」
店主の怒りを買ったようで「出てけ!」と盛大に怒鳴られ店の外に追い出され山積みにされる。
積み出す順番は手前から。それでもマネージャーが最後なあたり、冷静さを欠いているわけではないだろう。
因みに修也と風丸は自らあとをついて出て行った。
店主がぴしゃん、と戸を閉めた。
「イナズマイレブン、いーいチームだったよなぁ」
円堂たちが来店したときからずっとカウンターの端に腰掛け新聞を読んでいた男がそう呟いた。
店主は見向きもせずカウンターの中へと足を進める。
「あのキャプテンの坊やなぁ……ゴッドハンド、使えるぞ」
そこでようやく店主が振り返る。
そしてその後ろに立っていたの姿を見て眉間に皺を寄せた。
その反応を見て男が振り返る。
「! 驚いた……お嬢ちゃん、まだいたのかい」
「ごめんなさい、ちょっと身を隠させてもらいました」
「お嬢ちゃん、人の話を聞いてたか?」
店主が口を開く。
はにこりと笑って男の座る席の一つ隣に腰掛けた。
カウンターの上に小銭を置く。
「円堂くんが注文してたラーメン、作りかけでしたよね?」
「こりゃまいったな、随分と肝の座ったお嬢ちゃんだよ。なあ響木」
店主は大きく息を吐いてカウンターの中へ戻って行った。そしてすぐに調理を始める。
「私、雷門中の って言います。おじさんは、イナズマイレブンを知ってるんですか?」
「知っているも何も、ワシらの世代にとっちゃ憧れだ。かっこよかったなあ」
「その話、詳しく聞かせてもらっても構いませんか」
カウンターの奥に不機嫌そうな店主の様子が伺える。
隣に座る男は鬼瓦と名乗った。
鬼瓦はちらりと店主を見て、それから少しだけな、と伝説の話を始めてくれた。




は鬼瓦ともに河川敷を歩いている。
雷雷軒ではとても興味深い話が聞けた。あの店主、響木が伝説のチームのGKをしていたという事実は円堂を活気つけるのに一役買うだろう。
今も鬼瓦から伝説の話を聞いている。どのようなチームだったのか、どんなプレイをしていたのか。
ラーメンを食べ終わった時点で二人して響木に店を追い出されてしまったため、歩きながら話を伺っている。
急に鬼瓦が話をやめ、腕を引かれてもたついた。声を出すまえに大きな掌でふさがれる。
落ち着いたところを見計らってか、すぐさま手を離してくれたが。
「お嬢ちゃん、あれを」
道の先に見知った姿を見る。円堂と、帝国学園のキャプテンだ。
グラウンドで練習している部員が不安げに二人を見ている。
少し近付いて、声が聞こえるところで身を隠した。
「総帥の策略があったからだ……俺たちの実力じゃない」
「そんなことないよ!」
鬼道の言葉に円堂が否定する。声に不満が現れていた。
しかし鬼道の顔は険しくなる。
ぎゅっとこぶしを握り、悔しそうに地面を見つめる。
「全部偽物の勝利だった……!」
「ンな事ないって!」
円堂と鬼道の言い争いは加速している。
は鬼瓦を見上げた。
鬼瓦は神妙な顔をして鬼道を見ている。正しくは鬼道なのか、その向こうにあるものなのか、に判別はつかない。
「鬼瓦さん……?」
「あ、ああ、すまん。お嬢ちゃんは仲間のところに戻るんだろう? さあ行った行った」
「ええ……またお話聞かせてくださいね」
鬼道は車に乗りこみ、そしてその車は姿を消した。
は鬼瓦に頭を下げ、グラウンドに向かって足を進める。
階段を下りる辺りで音無に声を掛けられた。
「どこ行ってたんですかー、急にいなくなるからびっくりしたんですよ」
「ちょっと雷雷軒でお話聞いてたのよ」
が笑ってそういうと円堂が食いついた。
風丸や染岡も驚いたような顔でを見ている。
「話って、監督の事か!?」
「あ、ごめん。その話はしてないや」
前のめりになった円堂がうなだれる。
あはは、と明るくが笑う。
周りは目に見えて肩を落とした。呆れたように笑っているものが大半だ。
、何を話していたんだ」
「っとね、伝説のイナズマイレブンについて、かな」
再び円堂の目が輝く。
周りもおおっ、と食いついた。
どんなプレイで、どんな技があって、どんな人たちだったか。
「GKは無失点を誇ってたらしいよ」
「スッゲ―! イナズマイレブン、かっこいいなあ!」
話を聞いて円堂たちは盛り上がっている。
は、イナズマイレブンの悲劇について、円堂たちに話さなかった。話してどうなるものではないからだ。
監督不在で気落ちしている雷門イレブンが、もう少し頑張るためのきっかけになればいいけれど。
盛り上がるチームを傍目には小さく息を吐いた。






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