ぱたぱたと駆け足で通路を移動する。向かう先は雷門のベンチだ。
「それにしても秋葉名戸は汚いやつらだったでヤンス」
「よくあんなこと考え付いたよね」
まばらにチームメイトの声が聞こえてきて息を吐いた。
戸口に手をついて呼吸を整える。
「せ、先輩っ? どうしたんですか」
に気が付いた音無が声を上げる。周りも倣ってに視線を投げかけた。
手をついたまま地べたにずるずると腰を下ろす。
慌てたように木野と夏未が寄ってきた。
「ま」
「ま?」
二人が首を傾げて繰り返した。
へたり込んだままが言葉を紡ぐ。
「間に合わなかった……」
落ち込んでいる時間があったらもっと急げばよかった。まさかすでにホイッスルが鳴っていただなんて。
いや、試合が終わったのに秋葉名戸にいてくれたことを感謝すればいいのか。
よろよろと立ち上がり修也の隣に置いていたカバンを手に取る。
「ごめんね、試合最後まで見られなくて」
「いや、気にするな。それより、わかっているだろうな」
ベンチに腰かけたままの修也が下からじっと見つめてくる。人によっては睨まれていると表現するのかもしれない。
きっと、退出の理由を聞かれているのだろう。なんて説明しようか。正直に言えば怒られるに決まっている。それに心配もさせるのだろう。
「それは、今じゃなきゃダメ、かな」
んー、と小さく唸って、結果、修也にそう告げた。
不満だと雰囲気からして伝わってくるが、修也は「いずれ話してもらう」と言った。
の話したがらない性格を修也はよく理解していた。
まったく、と息を吐いた修也にごめんね、と再び謝る。
夏未が「帰りましょうか」と言ったことで一同はぞろぞろと秋葉名戸をあとにするのだ。
目金だけは名残惜しげにしていたが。




夕暮れの河川敷を歩く。夕飯の買い出しの帰りだ。
怪我はましになったとはいえ無理をさせてはいけないと、修也は家で待機してもらっている。今頃母の玩具にされている頃だろう。
重たいものばかり買い込んだので荷物持ちが欲しかったが仕方がない。
イナズマKFCの子供たちがグラウンドで楽しそうに練習をしている。最近は雷門中サッカー部が練習でよく使っているため、気にはなっていたのだが杞憂にすんでいるみたいだ。
さん?」
小さく微笑んでグラウンドの様子を見守っていると、背後から声を掛けられた。
振り返る。声の主は解っていたので特に驚きもしない。
「土門くん、こんにちは。ってなんだかおかしいわ、さっき別れた所よね」
ふふ、と笑うと土門も同じく口元を緩めた。
土門が数歩の距離を詰めてくる。
隣に並んで、グラウンドを見下ろした。
「あいつら、やってるなー」
「楽しそうだね」
サッカーに精通している人が教えているらしいこのチームはとても強い。
まだまだ体格は小柄だけれども中学生の雷門イレブンと試合してもいい線をつくのではないだろうか。
「次は予選決勝……帝国学園だね」
「……さんはさ、その、気にしないの?」
土門が視線をそらして、そう呟いた。
は瞬きを繰り返す。
土門がスパイとして雷門に入っている事は知っている。
もともと帝国学園のサッカー部にいたからと、そんな事は気にしていない。土門はとてもいい人だ。土門は、雷門の一員として帝国学園と戦うのだ。
「帝国学園相手だからって、遠慮して無様なプレーしたら怒るよ。やるからには本気で。土門くんは雷門の選手なんでしょ」
ぽかんと口を開けて、土門は戸惑っている様子だった。
そして頭を掻き、照れくさそうに笑った。
「そ、っか。うん、そうだよな……俺も雷門イレブン、なんだよな」
少しさびしそうに土門が笑う。
は土門の背中をぽんぽんと叩いた。
「なにか気にしてるみたいだけど、土門くんが信じるようにやってみるのが一番いいと思う」
「え」
「信じた道は後悔しない筈だからね。それで困ったら私が微力ながらおせっかいをやいてあげる」
冗談じみた口調で、いたずらっぽくは笑った。
どうも、立ち回りの苦手な子を放っておけない性格なのだ。優しい人を放ってはおけない性質なのだ。
呆然と立ち尽くす土門を置いては歩き出す。
遠ざかるに声を掛けることもついていくこともできないでいると、くるりとは振り返った。
「あ、そうだ。晩御飯食べに来ない? 今日シチューなんだけど」
土門はその一言で、堰を切ったように笑い出した。
きょとん、とは瞬きをし首を傾げる。
さん、ほんと変わってるなぁ。……ご飯はまた誘ってくれよ、ちょっと用事、できたからさ」
「そう? 無理はしちゃだめよ。ご飯のリクエストならいつでも受け付けるからね」
笑ったに土門が手を振る。そして来た道を土門は引き返していった。









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