夕暮れの道を、いつもの様に修也の数歩後ろで歩く。
必殺技を身に着けるための特訓の結果は思わしくなく、途方に暮れているというのが現状だった。
キャプテンである円堂は何とかなると言っているが、現実問題打開策が必要なのは確かな事だ。
そんな事でいいのかともっと真面目に考えた方がいいと言葉を紡ぐ風丸の言葉に重ねて円堂の腹が鳴った。
にっと笑った円堂がラーメン食って帰ろうぜ、と歩いて行く。
「おい、円堂」
「作戦会議は雷雷軒でしようぜ」
風丸が溜息をついた。何を言ってもどうせ聞かないと諦めたようだ。
困ったように風丸が振り返る。修也と顔を見合わせて苦笑した。
風丸がちらりと視線を移動させて修也との顔を交互に見る。
目が合った豪炎寺が頷いた。
「作戦会議だろう。付き合うぞ」
「さんも雷雷軒に寄って帰るのか?」
風丸が首を傾げた。それに合わせて縛り上げた髪が揺れる。
同じように首を傾げて考える。
「ラーメン一人前はお夕飯が食べられなくなっちゃうね」
放課をサッカーに充ててずっと動いていた男子中学生と同じ分量など食べられるはずもない。
どうしたものかと考えを巡らせていると少し前を歩いていた修也がぽつりと餃子が食べたいと呟いた。
「じゃあ私も寄って行こうかなあ」
「そうか」
餃子とラーメンを二人で一人前ずつ食べればいいだろう。一人前ずつというと半々のような気もするが三分の一もあればもう十分だ。
ふと見た風丸が怪訝な顔をしている。
よくよく考えてみれば、突然修也が素っ頓狂な事を言い出した様にしか見えないのかもしれない。
にとっては特に気にもならない会話なのだが。
理解できないという顔をしている風丸もそうか、と相槌を打って先を行く円堂の後を追いかけた。
修也が不思議そうに首を傾げる。
これはちょっと気を付けて喋らなくてはいけないかもしれない。
慣れていない第三者の意見というものは確かに大事だった。
商店街を歩いて暫くした頃、赤い暖簾の店の戸を円堂が開けた。
中は客が一人だけ、入り口付近に座っている。カウンター席に四人で腰かけた。
注文通りに料理が並んだところで再び作戦会議に移行する。主に喋っているのは風丸と円堂だ。
は餃子を食べながらそれを聞いていた。
「野生中相手に新必殺技もなしにどうやって戦うんだよ」
ずるずるとラーメンをすすって、しっかり飲み込んでから円堂が気軽に大丈夫だって、と言った。
堂々巡りになる円堂との会話に風丸が溜息をつく。
それに対して円堂は自信満々に、にっと笑った。
「俺たちはイナズマイレブンになるんだぜ? 新必殺技がなくたって、皆はやってくれるって信じてる」
伸びるぞラーメン、とのんきにつぶやく円堂に促されて風丸がラーメンに箸をつけた。
静かになったタイミングで修也が餃子に箸を伸ばしながらイナズマイレブンか、と呟く。
円堂が引き継ぐように、どんな必殺技を使ってたのかなとぼやいた。
イナズマイレブンが使っていた必殺技は、円堂が持っている特訓ノートに書かれているものとは違うのだろうか。
そもそも今書かれているもの以外に必殺技があったかどうかも怪しい。もしあるというなら一冊のノートに纏めていてもらいたいものだ。それともノート一冊では纏めきれないほど沢山編み出したのだろうか。
修也の前に置かれたラーメンの器を引き寄せる。
麺を口に含んで咀嚼しながら必殺技について思考を巡らせる。
何かを忘れているような気がする。そして最近そんなことがあったような気もする。
思考の海に沈んでいたを引き戻したのは、カウンターの向こう側でキャベツを刻んでいた店主の呟きだった。
「イナズマイレブンの秘伝書がある」
ぽかんと口を開けて修也が店主を見る。も同じ反応をせざるを得なかった。
「へえ、秘伝書なんてあるのか」
「何が書いてるんだろうな」
ぼんやりと風丸と円堂が店主の言葉を拾う。
刻み終えたキャベツが冷蔵庫にしまい、何事もなかったかのように店主が背を向けた。
数秒の間を開け、がたんと椅子を揺らして二人が立ち上がるった。
「秘伝書だって!?」
声がふたつ。円堂と風丸のものだ。綺麗に重なったそれに円堂が続けた。
円堂大介の名前が店主から上がる。言葉の雰囲気からして親しい間柄だったようだ。
孫である円堂を見て盛大に笑っている。
秘伝書が存在するという事は必殺技はほかにもあったという事になる。そして、店主はあると明言するからには在処も知っているのだろう。
お玉を突き付けられた円堂が転倒する。脅しのような忠告のような言葉を店主は発した。
円堂は受けて立つと言わんばかりに笑っていた。
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