修也がサッカー部へ入部を決めた。
自分としてはああやっとかという気持ちで溢れ返っていた。もちろん嬉しい。
これで漸く修也はサッカーに向き合える。
そう思ったのはいいが、その入部がサッカー部に波乱を呼んでいる。
空気がぴりぴりとしていて、部外者であるは逃げ出したい一心だった。
円堂が苦笑しながらホワイトボードに書かれたフォーメーションを説明し始める。
それをぼんやりと眺めながら、何故ここにいるんだろうと考えていた。
フォーメーションについてどうだろうかだなんて聞かれたところでプレイをするのはではない。よっぽど無謀な策でもない限り意見を求められても改善できる点など伝えられるわけもない。
事実から分析することは好きだし、それなりに的確だと自負しているが、それをよくする方法など分かりっこない。
それに傍から見ているだけの人間にとやかく口出しはされたくないはずだ。
じゃあなにか。
は修也と染岡の間という、最悪の場所に座らせる為の人身御供だとでもいうのか。
態々そこを選んで座ったのではない。は自分を苛めたい人種ではない。
修也と一緒に入り口を潜ると端っこに染岡が座っていて、周りの空気が完全に間に座れと言っていたのだ。
部室が狭いと座るところ一つ選べないのかと渋々座ったが空気が刺さる。小さく身じろぎした。
空気をこれ以上悪くしたくないのでにこやかな対応を心掛けてはいるが笑いが引きつっている気がする。
「よっし! 今日も河川敷で特訓だ!」
手早く説明を済ませた円堂が掌を拳で叩く。数名を除く部員が元気よく返事をした。
一年生が我先にとバタバタと部室を出て行く。続いて染岡が扉を潜った。
隣に座っていた修也が立ち上がった。ふう、と小さく息を吐く。
溜息をつきたいのはこっちの方だ。
原因の一人である染岡は一年生に河川敷までランニングを命じていた。彼自身も共に走るらしい。掛け声が遠ざかっていくのが分かる。
ーごめんなあ」
顔の前で掌を合わせた円堂が歩み寄ってきた。
情けなく眉尻を下げてそれでも笑っている。基本的にいつも誰かと話す時、円堂は笑っている。
が、今はそんなことどうでもいい。
「怒ってないけど、何とかした方がいいんじゃないかしら」
部外者の私を緩衝材にしないで、もっと円満にチームが動くようにして貰いたい。
これでは雷門の特徴であるチームプレイは発揮されないだろう。先が思いやられる。
溜息をつく。
円堂がさらに困ったように謝った。風丸も援護するように謝罪の言葉を重ねる。
今の溜息はそういう溜息ではないのだ。
「立たないのか」
訂正を入れようとした途端に修也が口を挿んだ。
部室に残っている全員が首を傾げた。
修也がを指差す。そしてもう一度立たないのかと言った。
「そんな元気ないわ」
精神的疲労が半端ない。
立ち上がるのも億劫で、さっき床に正座した時のままでいた。
そうかと修也が言っての脇の下に手を差し込むとそのままひょいと持ち上げる。
わけが分からないまま地面に足を着けた。
「立ったな」
「あ、りがとう?」
頼んだ覚えはないが手を貸してくれたのだろう。一応感謝の言葉を述べておく。
満足げに修也が頷いてくるりと背を向け歩き出す。
何がしたいのか甚だしく疑問だがそのあとを付いても歩き出した。行先は河川敷だろう。
豪炎寺って実は結構マイペース?
背後で誰かがそう言ったのを聞いた。
振り返ると円堂と風丸が呆れたように笑っている。
遅れちゃうよと声をかければひらひらと手が振られた。
「染岡くんが必殺技を覚えたんだって。修也くんには負けないってやる気出してたよ」
前を歩く修也に話しかける。
振り向くことも足を止めることもなくそっけない返事が聞こえた。
よかったね、と声をかけると視線をちらりとこちらに向けて修也が答える。
「なにがだ」
「ライバル出現だよ。今までいなかったもの」
互いに切磋琢磨し合える仲間がいるというのはいいことだ。
今まで修也が所属したチームではそうはいかなかった。修也がいれば点が取れるといった雰囲気のチームだった。
雷門はサッカーが十一人でするものだってちゃんと知ってる。誰かが突出してるだけじゃチームは成り立たない。
だからと言って手を抜くのは話が違う。全員が全力のプレイをして、上を目指して一緒に強くなっていかなくてはならない。
少なくともの知るサッカーはそういうものだった。
「雷門はいいチームだね」
良くも悪くも刺激し合ってより強いチームになるだろう。
負けてられないね、と背を叩くと修也が頷いた。






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