帝国学園との練習試合は相手の試合放棄という形で決着がついた。
結果だけ見ると雷門サッカー部の勝ちである。少なくとも廃部の危機は免れたらしい。
それにどこかで安堵している自分に豪炎寺は少なからず狼狽えた。
関係ないと思っていたはずなのに、いつのまにか関係ない事ではなくなってしまったのだ。
河川敷での一発は別にしても、あの日、ゴールに向かって打ったシュートは豪炎寺に何かを訴えるのには十分だった。
資格なんてないと考えながらもサッカーに関わるものを捨てることができないでいた。
それでも一年だ。一年の間一度もサッカーをしなかった。
それなのに、たった一度のシュートでこんなにも揺らいでいる。
自身の中で答えが見出せないまま豪炎寺は夕香の病室にいた。
幸か不幸かそんなタイミングであの熱血キャプテンが訪れ、事の次第を説明するに至った。
正直なところ、自分でどうしたらいいのか悩んでいたのだ。
意気消沈したまま円堂は病室を去った。
豪炎寺は長く息を吐いて、小さな夕香の手をそっと握る。細い手首でミサンガが揺れる以外に何の反応も返ってこない。
「修也くん、また何か難しく考えてるでしょ」
突然背後から聞こえた声に振り返る。
腰に手を当てたが首を傾ける。黒い髪がさらりと流れた。
教室で木野と話していたに声はかけなかった筈なのに、なぜだか今彼女はここにいた。
、なんでここに」
「帰り道の花屋さんで可愛いお花見つけちゃって。夕香ちゃんのお見舞いなら声かけてくれればよかったのに」
そう言っては花瓶に花を活ける。時折枯れた花を抜いたりして花瓶の中は色取り取りになった。
ついこの間換えたばかりの水は交換しに行かないのだろう。
花を入れて持ってきた袋にごみを入れ、袋の口を縛るとそれを部屋の隅にあるゴミ箱に捨てた。
が椅子に座っている豪炎寺の隣に立つ。
「夕香ちゃんは、サッカーしてるお兄ちゃんの事が大好きなんだよ」
手を伸ばしてが夕香の頭を撫でた。優しく行き来する手をじっと見る。
視線をこちらに向けたと目があった。
そっと微笑まれて視線を逸らした。なぜだか真正面から受け止めたくなかった。
は微笑んだまま言葉を続ける。
「そうじゃなかったらあの日、サッカーを観に行かなかったんじゃないかな」
はいつだって欲しいと思う言葉をくれる。
道に迷った時に目的地を指示して、背中を軽く押してくれる。
強引に押していくわけでもなく、無理に引っ張るわけでもなく、最後の判断は本人に委ねる。そういう人間だった。
の腕をつかんで引き寄せる。
うわ、と上がった小さな悲鳴は聞こえないことにした。
ぎゅうっと抱きしめる。
横から引き寄せたから抱き心地はあまりよくない。それでも手は離さなかった。
「修也くん?」
真上から不思議そうな声がする。
何を言えばいいのか分からない。そもそもなんとなく引き寄せたのだから理由などない。
無言を貫き通すと小さく笑い声が聞こえた。
するりと顔の横を腕が通過する。
「しょうがないお兄ちゃんですねー」
反論する間もなくが背を叩く。トントンと一定のリズムを刻む掌が心地よくて目を閉じると、そのまま両腕に力を込めた。
回した手の先に髪の毛を感じる。随分と伸びたなと場違いに考えた。




(大丈夫、大丈夫。私はずっと応援しているよ)






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