黒板に白い文字が記されていく。珍しい字面だなあとぼんやりそれを見送った。
少なくとも半田とは比べ物にならないほど印象に残る名前だった。
今日から同じクラスになるというその転校生は面白いくらいの仏頂面で、面白くなさそうにぼんやりと担任の横に突っ立っていた。
円堂が馬鹿みたいにでかい声を出したとき以外はずっと同じような顔をしている。
ちなみにその時はすごく嫌そうな顔をした。それもほんの一瞬の事だったが。
「木戸川清修中から来たんだったね」
「はい」
テンプレートみたいな自己紹介をした転入生が席に着くのを見る。
女子がひそひそと囁く声と自身に向かってくる視線は気にならないのか慣れているのか、戸惑う様子もなくそいつは座っている。
それなりに転入生に興味はあるけれど、全力で関わるなオーラ出してる奴に声をかけに行きたくはない。少なくとも普通はそうだ。そして半田は普通の人間だった。
普通じゃないのは顔に目が眩んだ女子と空気の読めない奴。それかうちのキャプテンくらいだろう。
ホームルームが終わった瞬間飛びつくように転入生の机に身を乗り出した円堂が目を輝かせている。
話しかける機会を伺っていたらしい女子たちが不服そうに退散していった。いや、遠巻きに眺めている。
「なあ、も前は木戸川清修だっけ」
「え? うん、そうだよ。二か月もいなかったけど」
前の席に腰かける女子に話しかける。
弾かれたように顔を上げ振り返ったに半田は苦笑した。
転入生がどんな奴かを訪ねようかと思ったが、彼女も奇妙な時期に転校した人物の一人であったことを思いだした。流石に二か月ではお互いの事もよく知らないだろう。
不思議そうに首を傾げるに別に何でもない、と手をひらひらと振った。
再び頬杖をついて転入生を眺める作業に戻る。
楽しそうな円堂と対照的に機嫌が降下していく転入生。
あーあ誰か止めてやれよ、近くにいる木野とかさあ、と無責任に考えたところでチャイムが鳴った。



部室でいつもの様に、情けないことにいつもの様に漫画を読んでいたら血相を変えて円堂と木野が飛び込んできた。
背凭れに体重を預けて不安定な体制をとっていた宍戸なんか転倒したくらいだ。
大丈夫かよと声をかける。栗松やら少林寺やらが手を貸していたのを確認して半田は円堂に視線を移動させた。
「なんだよ円堂、血相変えて」
「練習試合だ!」
驚いた様子の染岡の言葉にかぶさるように円堂が叫んだ。
全員の動きが停止する。立ち上がろうとしていた宍戸も手を貸していた他の一年も問うた染岡も漫画を読んでいた半田もだ。
「人数もいないのに何処が試合なんて受けてくれるんだよ」
半田が呆れたように呟く。続くように部室の中にいた者たちが頷いた。
焦れたように円堂が大声を出す。
「だーかーらー! 帝国学園と! 練習試合!」
「帝国って、あの……?」
誰ともなしにそう言ったのが聞こえた。
半田も耳にしたことがある。
円堂が出たい出たいと大騒ぎしているFFに出場して40年間無敗を誇るサッカーの強豪。
勉学面にも突出していて相当な進学校だとも聞いた。
それ以上に、負けた学校を破壊しているという悪質なやり方がその名を轟かせている一役を担っているだろう。お互いが合意の上で廃校に持ち込まれているらしいその取引は第三者が口出しできるようなものではなく、警察も手出しできないという。
「その帝国学園がなんでうちとの練習試合なんか受けてくれるんだよ」
「それがね、どうも向こうから申し込んできたみたいなの」
木野の言葉にいよいよ理解不能になって半田はため息をついた。
何がどうすればこんな無名以前の問題のサッカー部に天下の帝国学園が試合を申し込むというのか。
「ってわけだから、俺は今から部員集めてくる! 詳しい話は木野に訊いてくれ」
円堂が来たとき同様駆け出て行った。
半田たちはそれを呆然と見送る。木野が慌てて説明の補足を入れた。
胡散臭いとは誰も口には出さない。
皆そう思っているのだろうが、内心では久々にできるかもしれないサッカーに沸き立っているのだ。
どうせ勝てない事も分かっているし、負ければ廃部だということも分かっているが、ある意味これはいい機会なのだ。
サッカー部が無くなればすっぱりと諦めもつく。相手は帝国学園だ。理事長代理である雷門夏未が勝手に押し付けてきたであろう条件の廃部だが、帝国学園相手にその程度で事が済むならリスクは少ない。
染岡が腰を上げる。続いて半田も立ち上がった。




(腹は立つから悪あがきくらいしてやるけどな)






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20140510/訂正