夕暮れの河川敷をは修也と歩いてた。
もうすぐフットボールフロンティアが始まる。つまりはあの事故から一年近くが経過しているのだ。
それだけの間、全く変化の訪れない夕香の容態には一喜一憂することはなくなった。
日も暮れるというのに楽しげな声を上げて遊ぶ子供を見ては微笑んだ。
そんな穏やかな時間をぶち壊す様に怒声が聞こえる。
音の発生源は近い。
修也の視線に従い視線を移動させると河川敷のサッカーグラウンドに何人かの子供、二人の男、それから蹲る人影が見えた。
視線は逸らさないが不愉快だと言わんばかりに修也が顔を顰める。
暗くなり始めている中でよくは分からないが、蹲る人影には見覚えがあった。
「円堂くん……?」
首を傾げて呟く。
それより一瞬早く修也が土手を駆け下りた。
ベンチの近くにいた少女に向かって飛んで来たボールを真っ直ぐに蹴り返す。
いっそうの速度を得たボールが見事なまでに男の顔にぶつかり一瞬で伸してしまった。
目下にあるグラウンドの人たちも何が起こったのか理解していない様だった。
急展開に唖然としている内に男が伸びた男を引きずるようにして退散してしまい、修也はしまったと言わんばかりに視線を逸らした。
くいくいと先ほど助けられた少女が修也の服の裾を引く。
年齢は夕香よりすこし上くらいの、溌剌とした印象を持つ少女だ。
相当不機嫌な表情をしている彼に臆することなく、少女はありがとうと顔を綻ばせた。
驚いて、それから小さく微笑むと修也は土手を上り始める。
「凄いなお前! サッカーやってるのか」
円堂が追うように声をかける。
振り返りもしないで土手を上りきるとの腕を引いた。
「行くぞ」
「え、ちょ、え?」
ぐいぐいと引かれるままに歩みを共にする。
視界の端で興奮気味の円堂と困惑している木野と首を傾げている少女が見えた。そのうち目があった少女に手を振る。
背後から円堂の感謝の言葉が聞こえた。
河川敷が見えなくなったところで修也の腕が外れる。
正面で顔の見えない修也だが、怒っていることが手に取るようにわかる。チクチクと刺さるような空気に肩をすくめた。
自分でサッカーをしないと決めたのにボールを蹴ってしまったから気に病んでいるのだろう。
あの少女に向かって飛んでいったものが野球ボールでも空き缶でもきっと修也は助けに入っただろうから、蹴ったものがサッカーボールであっただけで深く考える必要などない。
そもそもサッカーボールがなければ起こらなかったかもしれないという可能性は横に避けておく。
肩を背後からぽんぽんと叩く。首を突っ込まなければいいのだが、一緒に歩くのはつらい。
「怒ってると夕香ちゃんが気にするよ」
「怒ってない」
「人助けなんだからノーカンでしょ」
すぐさま返ってきたうるさいという言葉に苦笑する。
修也は無言のまま歩き続ける。どうせまた顰め面をしているのだ。
サッカーと少女。
修也を揺さぶるにはもってこいのキーワード。
おそらくは少女と夕香を重ねてみたのだろう。
「ほっとく方が夕香ちゃん怒るよ」
修也の肩をぽんと叩く。呆れたようなため息が聞こえた。
本当に鈍感で心配性だなあ、と先を歩く修也にお返しの気持ちも込めて小さくため息をついた。







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