肩下まで伸ばされた、さらっさらの黒髪ストレート。
インパクトの強い黒ではなく、柔らかさを持ったそれと同色の長い睫毛。
腹を立てるどころか不機嫌なところすら見たことがないほど穏やかな性格。
頭もいいらしく転入早々行われたテストで数学以外の教科は満点を取っていると聞いた。
中学生の平均身長である俺から見ても小柄な体。
はっきりいって微妙な時期に転入してくる不思議さとその整った容貌が相まって、はとても注目されていた。
性格は、黙っていれば綺麗系、という感じ。もちろんいい意味だ。
綺麗で賢いという外部情報から見るととっつきにくい気がするが、喋ると面白い。
喋る内容もそうだが、なんというか天然気味で面白い。
綺麗、というより可愛いという形容詞がぴったりくる女子だった。
そしてそんな女子にバレンタインにチョコを貰って嬉しくない男子がいるのだろうか。いや、いるはずがない。少なくとも見たことがない。
全国平均男と不名誉な渾名がつけられる俺が言うのだから、きっと間違ってない。
当然の様に俺は喜んだ。皆同じ包みで同様にその場で手渡されていてもだ。
木野には朝練の時に貰った。
一緒に部活をする仲間だから、と言ってくれたが多分円堂のカモフラージュだ、って染岡が言ってた。
いや、もちろん木野の本音だとは思う。……どっちも。
ただ本気で驚いたし、本気で嬉しい。身内以外から貰うなんて殆ど初めてだ。
放課後になってさらに驚くことが待ってるとは思わなかったが。
「木野さんの言葉に甘えて作っちゃったけど、要らなかったら捨ててくれて構わないからね」
「一緒に作ったのよ、さん料理すっごく上手だったわ」
部活の時間になってから、木野がを連れて部室に来た。
当然のことだが誰かが、それも話題の女子が来ると思っていなかった俺たちは目玉が飛び出るかっていうくらい驚いた。
さらにいうならその突然の訪問者がバレンタインに皆でどうぞってチョコをくれるというのだ。夢でも見てるのかと思った。
「俺さ、今腹減ってんだけど、食べてもいいか?」
眩しいほどの笑顔で我らがキャプテン円堂が言う。
木野の隣に立っているが朗らかに笑った。
「全然かまわないけど、木野さんに朝貰ったんじゃないの?」
「昼までに食っちまった。うまかったぜ、ありがとうな、木野!」
がさごそとラッピングを解いていく円堂。間違いなく今言う感謝の言葉ではない。
ちらりと見ると木野は苦笑していた。
視線を横にずらすとが何か言いたそうに視線を動かしていた。
木野も気付いた様子でどうしたの、と首を傾げてに尋ねていた。
「あ、あのね、木野さん」
「なあに、さん」
しどろもどろに言葉を探しながら視線を彷徨わせる
それを根気よく待つ木野。
なんだか妙な予感がするのは俺だけだろうか。
これ、とが自分の顔を隠す様に両手で持った小さな紙袋を掲げた。照れているのか視線は木野から外されたままだ。
「えっと、木野さんに……チョコじゃなくてクッキーなんだけど」
よかったら貰って、と頭を下げつつ両手に持った紙袋を木野に捧げる。
ぱちくりと瞬きをした木野が、一瞬ののちに微笑んだ。
「ありがとう、さん! あのね、私もさんに用意したんだ。受け取ってくれる?」
木野はそう言って鞄の中から一つの包みを取り出した。
サッカー部の部室の中で二人の女子が顔を見合わせて、花を咲かせんばかりに微笑み合った。




(……ひょっとして、俺たち木野のカモフラージュ?)






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20140510/訂正