冬が訪れた。
太陽は顔を見せるのが遅くなり、吐く息は真っ白になって、吹き付ける風は大変冷たい。
スカートから伸びる脚がぴりぴりと痛みを訴える。寒いを通り越して痛い。
タイツを穿いていて本当によかったと思いながらも、タイツを穿いてもこれだけ寒いという事実に溜息をつく。真っ白に靄がかかった。
年末頃から修也を家に招いてちょっとしたパーティもどき。
例年通りお隣さんだったら私が顔を出していたのだが、人数の面もあって修也が稲妻町に訪れた。
ささやかなクリスマスと正月を稲妻町で迎える。
向こうの友人にはメールで新年の挨拶を済ませた。監督には年賀状を出したけれど。
そして忙しい冬休みも終わりをつげ、始業式を見送って数日が経った。
教室はバレンタインムード一色である。
隣に腰かけた木野がすごいね、と半ば呆れたように呟いた。
「木野さんは誰かにあげたりしないの?」
例えなくてもあのキャプテンとか。
という言葉は飲み込んだのだが木野が自分で暴露した。慌てふためいて違うの、本当に違うのよ、と顔を真っ赤にしている。
本当に可愛い子である。夏未といい木野といい夕香といい、この世界の女の子は可愛い。
「いいじゃない、渡せば」
「だから、本当に違うんだってばあ!」
「お疲れ様、これからも頑張ってね。って理由で部員に作ってあげればいいんじゃないかしら」
男というものは義理だと分かっていても貰えると嬉しいらしい。
高校生の頃に、友人たちが手作りのお菓子だとか可愛らしいラッピングを施した義理チョコを部活の男子に振りまく中「バレンタインこれ分けてみんなで食べてね」と大袋に入ったチョコを丸投げしたものだ。
要するに気持ちの問題なのだ。それなりに喜ばれていたから、あれでも別にいいだろう。果たしてあの渡し方に気持ちが籠っていたかと聞かれれば首を傾げるが。
そう伝えると、木野は納得したように頷いた。もちろん高校云々の部分は知り合いの話と煙に巻いたが。
「幼馴染がいるんだけど、その子もあげると一応喜んでくれるよ」
お母さんの手伝いでバレンタインに乗っかるついでに修也にも毎年用意している。
まあクッキーとかチョコとかケーキとかに始まり最近は明らかにお菓子ではないものなど、いろんなバリエーションで作っては皆で食べているので明確に修也にあげたという感じはしないが。
そっけないながらちゃんとお礼は言うし、嫌そうでも困ってる感じでもないからまあ喜んでいるのだと解釈する。
律儀なことにホワイトデーにはちゃんとお返しをくれる。修也と夕香が二人で夕飯を用意して、結局みんなで食べるのだが。
今まで気に留めたこともなかったが、これは家と豪炎寺家の夕食会ではないだろうか。
ちょっと微妙な事実を発見してしまった。
微妙な気持ちをごまかす様に言葉を続けた。
「気持ちが籠ってればさ、なんでもいいんじゃないかな」
「感謝の気持ちとか応援の意味で渡すってことかあ」
「そうそう。大袋は別にしてもね」
楽しそうに木野が笑う。つられて私も笑った。
今年は状況が異なるから、バレンタインも異なるかもしれない。
最近はおじさんも仕事が忙しいと言っていたし、間違いなく家族で夕飯とかは難しいだろう。
夕香も病院だから、何か個別に受け取れるものを用意したほうがよさそうだ。
やっぱり無難にチョコレート?
おじさんと修也にはお店でチョコを買って、夕香にはちいさなぬいぐるみか何かをプレゼントしたらいいかな。
「ねえ、良かったらさんも一緒に作らない?」
考え事をしていると木野が控えめに尋ねてくる。
ちょっと首を傾げて期待した表情はとても断りにくい。まあ断る気はないのだが。
「ただの部外者でよければ、喜んでお手伝いするよ」
現在のサッカー部は木野を除いて三人と人数が少ないから手はいらないかもしれないが、一緒に作る方が楽しいに決まっている。
今日一番の笑顔で木野が頷いた。
これからの予定を立てるべく、必要な材料や道具を書きだしていった。
さんは誰にあげるの?」
楽しそうにペンを走らせる木野に曖昧な笑みを返す。
特に考えてなかった。
「サッカー部の人たち、が迷惑じゃなかったら私も渡そうかな?」
首を傾げながら言葉を紡ぐ。
まあ、まともに会話したこともないような女子にもらう手作りお菓子はおっかない。流石に断られるだろう。
だが受け取ってもらえなくても、三つくらいならどうとでも処理できる。
そっか、きっと喜ぶよ、と満開の笑顔で木野が笑う。今日この数分間で何度一番を更新するつもりなのか。




(当日、本命は木野さんに渡す)






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