月日というのは流れが速く、気付けば小学生になっていた。
もうすぐ修也には弟か妹ができるらしい。修也によく似た、目鼻立ちの整った彼のお母さんが嬉しそうに教えてくれた。
どっちが生まれるかはお楽しみよ、と言って笑っていた。修也は楽しみで仕方がないようだった。
真っ新なランドセルを背中に背負って、修也と同じ道を歩く。
入学式が済んでひと月が過ぎた。
家から小学校までは子供の足でもそんなに時間はかからない。隣に住んでいる修也も同様だ。
馴染んだ時間帯に家を出る。大抵の場合は同じ時間に修也も出てきてそのまま登校する。どちらかが早かったり遅かったりするときは予め伝えておいたり、インターホンを鳴らしたり。
「こんど、家族で旅行に行くんだってな」
「……そうなの?」
「ちがうのか? おじさんが言ってたぞ」
初耳だ。お父さんが旅行の計画を立てていたなんて聞いていない。
それなのになぜ修也がそれを知っているのだろうか。
きょとんとした顔で修也が瞬きを繰り返す。
特には聞いてないなあ、と返すとそっけない返事が耳に届いた。
私も同様にそっけなく返事をする。
あまりにも極まりが悪かったのか修也が眉間に皺を寄せて言葉を続けた。
「どこに行くんだろうな」
「さあ。でも私、あんまり外出好きじゃない」
妙なフラグを回収することを避けたいのもあるが、根本的に外は苦手だ。
ばたばたと動き回るのも好きじゃない。持ち歩く荷物が増えるのも遠慮したい。
そういうと修也が呆れたように溜息をついた。
「そういうところよくないと思うぞ」
「修也くんに迷惑かけてないよ」
全くもって関係がない話だ。それは個人の趣向の問題で、とやかく言われるようなことではない。
ランドセルのほかに、こんもりと膨れた鞄を肩に下げ、隣を歩く修也に目をやる。
鞄の中にはどうせサッカーボールが入っているのだ。
面倒な外出だって、修也がサッカーに誘う時だけは無碍に断らないようにしていると気付かないのだろうか。
……気付かないのだろうな。
私は修也より大きく溜息をついた。
学校が終わってもサッカーの練習をするである修也は、今日は置いて帰ることにする。
いつお父さんが帰ってきてもいいように、という理由が半分。
朝の事が若干面白くないと思ったことが半分。
「お、きなわ……」
「そうだよ、。沖縄だ」
家に帰ってきたお父さんに、修也から聞いた旅行の話を訪ねた。どうやら本当の事だったようだ。
ネクタイを解きながらお父さんが笑って、今度の夏休みに沖縄に旅行しようと言った。
「知り合いがいてね、宿を提供してくれるらしい」
「決定事項なんだ。べつにいいけど」
決まったことにわざわざ逆らっても仕方がない。親の言うことにはなるべく従っておくものだ。少なくとも自立できるまでは。
実際に小学校に入学したころの私が、親の言うことを素直に従っていたかどうかはかなり曖昧だが。
詳しい日程が決まったら早めに教えてね、とだけ言って自室に戻る。
明日、覚えていたら修也に伝えようと決めて布団にもぐった。
(結局忘れてて、旅行の3日前に伝えたけどさ)
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