は河川敷に立ち並んだ桜並木をゆっくりと眺めながら、通学路を歩いている。
少しの風が吹くたびに花びらが舞い散り、水面へと着地する。そのまま流れに合わせてさらさらと遠ざかっていくのを少なからず面白く思っていた。
時間に背中を押されることがないというのは、にとってとても喜ばしいことだった。
ぼんやりと空を見上げたり、地面に咲いている花を見たり、はたから見たらつまらないと言われるようなことが、は気に入っていた。
そして、いつもと同じようにぼんやりと空を眺めていると、後ろから声を掛けられる。よく耳に馴染んだその声の主は、姿を見なくても理解できた。
「やあ風丸。早いね、何か用事?」
「陸上の朝練だよ。お前こそ早いじゃないか、どうしたんだ」
振り返って声をかけると、風丸は穏やかに微笑んだ。同じように少し微笑み返す。
いつもと同じ時刻に起きてしまっただけだと伝えると、風丸は笑みを絶やさず同意を示した。生活のリズムってやっぱりそう変わらないよな、と言っての頭をぽんぽん、と撫でる。
「苦手だっていつも言ってるじゃん」
風丸の手から逃げるようには距離を取った。
頭を撫でられるのは苦手た。それに限らず他人との接触は昔から苦手だった。
唇をとがらせて反論してみたが、親愛の表し方としてのスキンシップを嫌がっているわけではない。ただ苦手なだけなのだ。
風丸の方もそれを分かっているのだろう、ちょっと苦笑してみせて、それからワンテンポ遅れる形で小さく声を上げた。
「どうした」
「やばい、朝練始まる」
じゃあな、と声を掛けられるのが先か、風丸が駆けだしたのが先か。
返事をする間もなく、風丸の姿は遠のいて行った。
「またあとでなー」
きっともう聞こえないだろうとは思いながらも、は小さく手を振って返事をする。
小学校の5年生の時、の転入したクラスに風丸はいた。詳しくない土地に来たの面倒をよく見て、一緒に遊んでくれたのが風丸である。もちろん、彼の幼馴染である円堂もよく一緒に遊んだ。最近ではどちらも部活が忙しいという理由であまりともにいることは少なくなってしまったが、いまでももちろん、仲の良さは健在だ。
「部活かー……面倒なんだよなあ」
は部活動に所属していない。理由は単純に面倒臭い、その一言だった。一人暮らしで部活をすると家事が手につかないだとか、そういう理由が全くない、とはいわないが、は忙しさとか面倒なことなどが嫌いだった。それがの物事の判断基準だ。
河川敷から駅を跨いで、しばらくすると雷門中の校舎が目に入った。
雷門中学は一年通ってもいまだに知らない場所があるほど大きな学校だ。特に部活動には気合を入れていて、数えきれないくらいの部活と、部室がある。
それだけの選択肢のどれもがの心を動かすには事足りなかった。
「はあ、始業式面倒だな」
校門をくぐりながら、は小さくため息をこぼした。
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