振動音と、机とそれがぶつかる音。
佐久間は机の端に置かれている携帯電話に目を向けた。
あいつ、忘れて行ったのか。
ひょいと持ち上げて液晶を覗き込む。勝手に何をするんだと怒られないでもないが、さして怖くもないので気にしない。
メールが一通届いているようだった。
「なんだこれ」
液晶には「コンビニ帝国店舗」と表示されている。
首を傾げる。さすがに中身を見るのは躊躇われるが、果て無く気になる。
帝国にコンビニはない。売店は存在するしそれなりに充実しているがコンビニはない。
たとえあったとしてもコンビニから携帯にメールが届くこともないだろう。
がちゃり、と部室の扉が開く音がして視線を向ける。
「あー、やっぱここにあったか」
「忘れていくなよな、こんな大事なもん」
「ごめんごめん。荷物運んでたらうっかり」
マネージャーの仕事は大変らしい。帝国学園のサッカー部レベルの部活ならなおさらの事だ。仕事はいくらでもある。あまりにも大変だから兄弟校というのか姉妹校というのか、帝国学園の系列の女子校からマネージャーを招いて手伝ってもらっている。
力仕事なんかは男手がいいが、掃除洗濯はからっきしだ。
できないことはないが、正直に言えば面倒くさいと言ったところか。
「お前さ、それ誰?」
「だれ? なにが」
首を傾げて瞬きを繰り返すさまを眺めて携帯電話を指差した。
液晶にはすでに表示されていない。
不思議そうな顔のまま手慣れた動作で携帯電話を操作して、ああ、と頷いた。
「源田だよ」
「げんだ!?」
予想だにしなかった解答に度肝を抜かれる。
佐久間の反応に、ぱちぱちと瞬きし、小首をかしげる。効果音を付けるとするなら、きょとん、だ。
マネージャーとしてお手伝いします。初めて会った時に連絡網用に連絡先を一軍部員全員と交換した。
因みに二軍は二軍でマネージャーが付いているらしい。詳しくは知らないけど。
「ちょっと待て。お前ほかのやつらはなんて登録してるんだ」
「え、たとえば?」
「辺見は」
「デコメ」
しれっと答える。
デコメってなんだ。辺見のやつデコメ大量送信でもしているのか。気持ちわりい。
納得いかないというような顔をしていたのか、やはり首を傾げる。
そして、あ、と声を上げた。いったいなんだ。
「オデコ、メールだよ」
「そういう……」
脱力する。こいつちょっとおかしい。
語尾に音符でもついているのではないかというくらいに、浮かれた口調で喋るそいつに溜息をついた。
「因みに鬼道さんは」
「97点」
どういう事なの。なにがどうして97点なんだ。残りの3点はどこへ行ったんだ。
っていうか97点とはどういう事だ。
それから部員全員の登録名を確認した。どれもこれもろくなものがない。
「……俺はなんて登録してるんだよ」
「キャンディ」
なんでだ。
もはや首を傾げるとかそういうリアクションすらとれずに楽しげなそいつの顔を眺める。
そうしたら見られていることに気付いたのか、楽しそうな顔を一点、いたずらを思いついたガキみたいな顔でにいっと笑った。
「残念だけど、佐久間には教えてあげないから自分で考えてね」
「はっ、ちょ」
まったねー、と手をひらひらと振って、来た時と同じように扉の音を鳴らして出ていく後ろ姿を見送る。
帝国のメンバーがそんな風に認識されていた事実と、自身の登録名がキャンディな理由と、部活後の疲労も相まって、佐久間は考えるのをやめた。
無心になりながら佐久間は自身の携帯電話の電話帳メニューをひらく。
そして編集画面からとある人物の登録名を「変人」と変更した。




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